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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)3002号 判決 1962年10月09日

三和銀行

第一銀行

理由

被告が昭和三十二年五月六日訴外池崎勝海に宛て金額金五十万円、満期昭和三十二年七月十五日、支払地、振出地共に大阪市、支払場所株式会社第一銀行船場支店なる約束手形一通を振出したことについては当事者間に争いがない。

証拠を綜合すると「池崎勝海は右被告より振出交付を受けた本件約束手形第一裏書欄に裏書人として署名捺印し、なお、被裏書人は白地のまま北海油肥興業株式会社の代表取締役である武川政弘に交付した。

そこで武川政弘は昭和三十二年五月頃北海油肥興業株式会社代表取締役として同会社の株式会社一〇加藤商店に対する債務金の支払のため本件約束手形を右株式会社一〇加藤商店に対し白地式裏書譲渡した。

株式会社一〇加藤商店では昭和三十二年六月三日株式会社三和銀行に対し本件約束手形を割引のため裏書譲渡し、同銀行はその満期日に支払場所で支払のため本件約束手形を呈示したが支払を拒絶されたので、株式会社一〇加藤商店においてこれを受戻した。」ことが認められる。

従つて仮に北海油肥興業株式会社が本件手形を取得するに由なく無権利者であつた(訴外武川政弘が池崎勝海の白地式裏書に擅に被裏書人として同会社を記載した)としても、株式会社一〇加藤商店に悪意又は重過失が認められない限り同会社は本件手形上の権利を善意取得したものであり、また株式会社一〇加藤商店に害意が認められない限り被告は北海油肥興業株式会社に対する人的関係に基く抗弁を以て株式会社一〇加藤商店に対抗することができないといわざるを得ない。

ところで前記株式会社三和銀行が本件手形(甲第一号証)を満期に支払場所で支払のため呈示をした当時その第一裏書欄には裏書人として池崎勝海の署名捺印、被裏書人として北海油肥興業(株)、裏書日付昭和三十二年五月十日の各記載があり、第二裏書欄には裏書人として北海油肥興業株式会社取締役社長武川政弘の記名捺印、被裏書人として株式会社加藤商店、裏書日付昭和三十二年五月十五日の各記載(旧第二裏書)があり、第三裏書欄には裏書人として株式会社一〇加藤商店取締役社長加藤欽一の記名捺印、被裏書人として株式会社三和銀行、裏書日付昭和三十二年六月三日の各記載(旧第三裏書)があつて裏書の連続を欠くということで支払拒絶となつたこと、そのため同銀行から本件約束手形の返還を受けた株式会社一〇加藤商店では昭和三十二年九月中に第一裏書欄に接続するように補箋(別の約束手形用紙裏面)を附着させ、再度北海油肥興業株式会社よりその裏書欄に裏書人として北海油肥興業株式会社取締役社長武川政弘の記名捺印及び被裏書人として株式会社一〇加藤商店、裏書日付昭和三十二年五月十五日の各記載(新第二裏書)をして貰うと共に旧第二、第三裏書記載部分に斜線を交叉させていたことについてはいずれも当事者間に争いがない。

而して証拠を綜合すると「原告は昭和三十二年九月二十七日新第二裏書に次ぐ裏書(新第三裏書)を以て株式会社一〇加藤商店より本件約束手形の譲渡を受け、現にその所持人である。」ことが認められる。

ところで被告は新第二裏書は既存の旧第二、第三裏書を抹消してこれがなかつた状態に戻した上別個新たになされた期限後裏書であると主張する。

これに対し原告は旧第二、第三裏書記載部分に斜線を交叉させて新第二書書の記載をしたのは旧第二裏書の訂正にすぎないというが、その記載の形式自体からして旧第二書書と新第二裏書とは彼此同一性を有するものとは認められず別個独立の裏書であり、また、旧第二、第三裏書記載部分に斜線を交叉させたのは裏書の抹消であるとせざるを得ない。

従つて裏書の連続の関係からいえば原告の右主張はとることができない。原告の右主張が意味を有するのは実質的権利関係についてである。(裏書の連続の点では現状のままで何等欠けるところはない)

抹消した裏書は裏書の連続の関係では記載なきものとみなされるがもとよりそれは形式的資格についていうことであつて実質的権利関係とは無関係である。

証拠によれば「株式会社一〇加藤商店が前記のように旧第二、第三裏書を抹消して補箋による新第二裏書をしたのは裏書連続の形式を整えるため第二裏書の訂正をする意図でしたもので新たな法律関係の変動のためにしたものではない。」ことが認められる。

前記一旦有効に発生した昭和三十二年五月北海油肥興業株式会社より株式会社一〇加藤商店に対する本件手形の白地式裏書譲渡の効力が消滅したとすべき法律上の原因については被告は何等主張立証をしないのである。

従つて株式会社一〇加藤商店が右裏書により一旦取得した手形上の権利はその裏書の抹消により回復することなく消滅したとの被告主張は採用することができない。

更にまた右に述べたところからして新第二裏書が別個新たな期限後裏書として株式会社一〇加藤商店が先に一旦享受した善意取得ないし抗弁切断の利益を消滅させるべき効力を有しないことはいうまでもない。

株式会社一〇加藤商店より原告に対する裏書が期限後裏書であることは勿論であるが、原告は同会社が善意取意した本件手形上の権利を譲受けたものであり、被告は同会社に対し北海油肥興業株式会社に対する人的関係に基く抗弁を対抗できない以上これを以て原告に対抗することもまたできないといわねばならない。

被告は、被告と池崎勝海との間には本件手形振出についての資金関係なく被告は同人に対して何等手形上の債務を負うものではない。武川政弘又は同人が代表取締役となつている北海油肥興業株式会社が右池崎から本件手形の裏書譲渡を受けたとしてもそれは債務者を害することを知つてなしたものであるとか、或いは被告の北海油肥興業株式会社に対する約束手形金債権五十万円と本件手形債権と相殺する(対立当事者を異にする点は暫く措く)とかの事由を原告に対抗すると主張するが、いずれにしてもこれ等の事由は被告の北海油肥興業株式会社に対する人的関係に基く抗弁であつて株式会社一〇加藤商店に対抗できないものであり、ひいては原告に対しても対抗できないところであるから被告の右主張は爾余の点を判断するまでもなく採用することができない。

結局被告は原告に対し本件約束手形金五十万円の支払義務を免れ得ない。

なお原告は本件約束手形金五十万円に対する満期以降完済まで年六分の割合による手形法所定利息金もしくは商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、満期日における支払のための呈示は前記のとおり裏書の連続を欠いた株式会社三和銀行によつてなされたものであるからこれに対する支払拒絶は適法であり、而して昭和三十二年十月九日本件手形がその支払場所である株式会社第一銀行船場支店において再度支払のため呈示されたことは弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一号証付箋部分により認められるところであるが、約束手形の呈示期間経過後支払場所に支払のためにした呈示は不適法でその効力がないと解する。

従つて被告としては本件手形金請求の訴状が振出人たる被告に送達されたことが記録上明白な昭和三十五年八月二十二日の翌日以降完済まで商法所定年六分の遅延損害金の支払義務あるものというべきである。

以上述べたところからして原告の本訴請求は本件約束手形金五十万円及びこれに対する昭和三十五年八月二十三日より完済まで年六分の割合による商法所定遅延損害金の支払を求める限度では理由があり認容すべきであるがその余は失当として棄却すべきである。

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